第4回 経営哲学の羅針盤 開催レポート
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更新日:4 時間前
本レポートは2025年12月4日(木)に開催された「不確実な時代の未来指針を示す羅針盤セミナー」シリーズ第4回〈経営哲学の羅針盤〉の内容を、主要な論点にフォーカスして再構成したものです。
シリーズ第1~3回では、「経済大国から循環大国へ」を全体テーマに、資本主義・時代・未来の3つの視点から、企業が価値を創出し続けるための“羅針盤”を探ってきました。最終回となる本回はアミタホールディングス株式会社 代表取締役会長 兼 CVOの熊野英介、同社 代表取締役社長 兼 CIOOの末次貴英、アミタ株式会社 取締役の宮原伸朗の3名が登壇。
本回は、過去3回の総括とともに、AIや参加者を交えたオープンセッションをリアルタイムで展開。シリーズの集大成として、AI社会において企業はいかなる未来を創造しうるのか、その指針を掘り下げた内容となりました。また、企業経営者を中心に、会場・オンラインあわせて105名の方々にご参加いただき、セミナー後のアンケートでは、参加者の約9割から「とても満足」「満足」との回答をいただきました。
(第4回のプログラムはこちら)

第1回~第3回の振り返りとベースインプット(熊野)
3つの羅針盤が示した「エコシステム経営」への視座
冒頭、熊野はこれまでを振り返り、それぞれが示した3つの羅針盤は、独立して機能するのではなく相互に関連し合い「エコシステム経営」という新しい経営パラダイムシフトに繋がっていくと発言。動的に適応し続ける必要性を述べ、総括しました。

【第1~3回までの振り返り】
ポイント:市場との対話
インパクトファイナンスや統合報告、倫理資本主義などの潮流を踏まえ、市場が「意思を持つ存在」として企業に対話を求める時代に入ったことを確認。費用対効果から投資対効果へ意思決定の軸を移し、サステナビリティ経営に先行投資する重要性が示されました。
ポイント:編集知
企業理念・競争優位・サステナビリティといった無形性の価値を、有形性の価値と融合させることの重要性を強調。超長寿・技術革新・三大限界といった構造変化の中で、モノ・人・AIを統合する「編集知」によるビジネスモデルへの転換が提起されました。
ポイント:制約の内在化
季節・政治的制限・資源不足という三つの制約下にあった江戸時代を例に挙げ、制約を起点に価値を生む日本文化の「編集力」について展開。つきすぎず離れすぎず、全体でクリエイティブを生み出す「連(れん)」、水俣病史における地域再生の概念「もやい直し」など、現代にも活きる視点が多く提示されました。
混沌の時代、AIを「道具」と見るか「社会」と見るか
熊野は、現代を人口動態、気候変動、資源枯渇、技術革新、社会的価値の転換という5つの変化要素が同時多発的に動く時代であると説明。
さらに現代は、人類史上初めて、超長寿、電脳社会、地球の制約条件という3つの構造変化が同時に進行する混沌の時代でもあると示し、新しい秩序を構築する必要性を強く訴えました。
続いて熊野は、この歴史的な転換期において、急速なマルチエージェントAIの進展が持つ大きな意味について言及。インターネット黎明期、多くの日本企業はインターネットを単なる「道具」と捉え、ウェブサイトやECサイトの整備など、表面的なデジタル化に留まった一方、GAFAなどの巨大プラットフォーマーを生んだ米国は、インターネットを「新しい社会」として捉え、社会のルールそのものを作り替えていったと指摘。同じ構図がAI時代において再現されるリスクを提示し、「AIを道具と見るのか、それとも協働する社会的存在と見るのかが未来を分ける」と断じました。また、AI社会への参画に必要なのは技術力ではなく、世界観を構築する想像力=メタプロンプトであるという点も強調しました。
関係性のネットワークで競争する「価値生産性」の時代
次に熊野は、現代は「モノの社会=情報を持ったビークル」「人の社会=関心領域ネットワーク」「AI社会=無意識の集合知」という3つの社会が同時に存在していると説明し、これら3つの社会の変化に対して「その時々の最適解」を常に生み続ける力、つまり連続的な適応力が必要だと主張。
また、適応にはその都度の「最適解」を生む柔軟性が必要だが、効率化だけを追うと硬直化が始まると主張。これから重要なのは、企業単体のケイパビリティより、サプライチェーン/ステークホルダーのケイパビリティを高めることであり、それが取引コストを下げ、競争力を生む時代であるとも展開しました。
その根拠として熊野は、ダーウィンの「適応とは『環境と形質の適合が動的に生成されること』」という考え方、そして今西錦司の「棲み分け理論『種同士が資源・空間・時間・行動の軸で重なりを減らし共存する秩序』」を提示し、これからの混沌とした社会では、自社が競争優位を発揮できる領域を見極めることが非常に重要であると述べました。
最後に、企業は「労働生産性」ではなく「価値生産性」を重視する時代であり、リスクの中にチャンスを生む状況づくりこそが経営者の役割であると強調して、ベースインプットを締めくくりました。
AI×人間の「編集知」(オープンセッション)

参加経営者が抱える主な悩み(ライブアンケート結果)
導入として、会場・オンライン参加者に全3問のライブアンケートを実施。サステナビリティ経営を巡る意識の揺れと、意思決定における共通の葛藤が可視化されました。
Q1:本羅針盤シリーズへの参加によって、今後の経営や自社のビジネス変革に対する意識にどのような変化があったか?
Q2:所属企業全体の現在の経営方針(意思決定の状態)はいずれに当てはまるか?
Q3:今の経営において最も難しいと感じる矛盾のコントロール/トレードオフはどれか? ※6項目中2項目選択

会場の傾向としては、短期的な業績責任と、長期的な社会価値・企業価値の創出の両立が、経営者層にとって最大の課題として表れており、オンラインは、変革に向けた創造性を発揮したい一方で、業務の効率化や成果責任との両立が大きな制約となっていることが明らかになりました。
これらの結果をAIは、以下のように分析しました。
73%が「希望と危機感の両方を抱えている」
サステナビリティ経営への移行を前向きに捉える一方、どこから始めるかの判断に迷いが生じている。
82%が「短期利益と長期価値の矛盾」に悩んでいる
四半期ごとの業績説明責任と、中長期投資判断との間で葛藤がある。
55%が「サステナビリティと収益の両立」に苦しんでいる
長期価値と短期利益が必ずしも一致しない現実が、意思決定の迷いにつながっている。
全体として「変革の必要性は強く認識しているが、意思決定の軸と実装の距離感に揺れがある」という共通課題が浮かび上がりました。この「揺れ」そのものが、以降のオープンセッションの2大テーマを考える上での出発点となりました。
テーマを紐解くQ&A
過去3回のセミナー内容、参加者から事前に寄せられた質問、ライブアンケート結果等をAIに学習させ、2大テーマについてAIに質問。AIの分析力と人間の編集知を掛け合わせ、リアルタイムで「価値創出の羅針盤」の導出を試みました。
Q1:価値創出の羅針盤は、何を拠りどころに設計すべきか?(テーマ1への回答)
【AIの回答】
AIは、矛盾は「解決」ではなく「統合(結合)」すべきだと整理。羅針盤として示したのは次の3点です。
時間軸の矛盾の統合:短期的な収益と長期的な社会価値のあいだで揺れる意思決定に対し、企業の存在意義(パーパス)を、時間軸を貫く判断基準の中心に置くべきという指針を提示。
収益性の矛盾の統合:サステナビリティと収益の両立を、二項対立で捉えるのではなく「編集知」によるビジネスモデル全体の再構成で、矛盾を新しい価値に変換し乗り越えるという視点を提示。
組織の矛盾の統合:効率と創造性、分業と協働などの組織内の相反する要素を、組織構造ではなく「つながり方」のデザインによって統合するべき矛盾として捉える視座を提示。また、AI活用は効率化ではなく、創造性の拡張に向けるべきだと主張。
【熊野の回答】
熊野はAIの方向性に対し、「現状分析としては良いが、北極星(目的)の設定が甘い」と異議を述べました。「羅針盤」自体には意思がなく、そこには人の意思を乗せることが重要だと指摘します。
混迷の時代に経営者に求められるのは「判断」ではなく「決断」であり、時代認識とゴール設定、決断の判断軸を自ら定める必要があると強調しました。さらに、過去35〜40年のマーケットインの常識が「どこかに正解があるはずだ」という前提を強めた結果、現状分析の罠に陥りやすくなったと説明します。これからは答案用紙がなく、正解探しのマインドでは価値創出はできない。だからこそ従来のマーケットイン的なアプローチからの「大きな飛躍」が必要だと述べました。
Q2:矛盾を抱えながら、変革を進めるための移行戦略は?(テーマ2への回答)
【AIの回答】
AIは5つのステップを提示しました。
矛盾の可視化(状況を「矛盾マップ」として整理)
倫理・パーパスを判断基準に据える(時間軸統合の軸を共有)
制約の内在化による独自価値の創出
「連」の組織文化の構築
AIと社会を統合し、人間の創造性を拡張する
成功要因は「矛盾を統合する勇気」であり、矛盾は解決ではなく結合だと述べました。
【熊野の回答】
熊野は、移行戦略の現実的な難所として「既存の会計制度の限界」に言及しました。AI投資は機械投資というより人への投資に近いが、現行の会計では人材投資は費用として扱われ、PLを悪化させやすい。工業社会を前提とした枠組みでは捉えきれない領域が拡大していると述べました。

そのうえで、過去実績を語る財務会計だけでなく、「何を成し遂げたいか」を起点に資源配分を設計する管理会計(マネジメント・アカウンティング)が重要だと整理しました。実際に同社でも期中にAI投資を決断したと述べ、未知数でも人への投資を惜しまない覚悟が必要だと語りました。
参加者との対話で深めたQ&A
Q3:サステナビリティの追求は経済のグローバル化に逆行し、ローカル化を促すのか。日本はこの局面でグローバル化を目指すべきか、あるいは独自の活路を見出すべきか?
【熊野の回答】
熊野は、地下資源の制約や気候変動によって農産物を含む供給条件が厳しくなる将来、産業界は三つのレイヤーに分かれると見立てました。太陽電池のようにコモディティ化する領域は寡占が進み、「超グローバル産業」として世界で数社が担う構造になる。一方で、生産部分は「安定供給できるローカル」に回帰しつつ、インターネットによって「365日24時間のグローバル」な価値提供が可能になる。これらを掛け合わせた結果、広がっていくのは「生産市場のグローバル」ではなく、「価値のグローバル化」であり、生産は各地のローカルで成立する「グローカル」の時代になると述べました。
具体例として熊野はコンビニを挙げました。中国にもインドにもコンビニはあるものの、商品を日本から輸出して成り立っているわけではありません。共通しているのは「便利」という見えない価値であり、その価値を最適化するPOSなどの情報システムを基盤にした、地域ごとの「便利」を実装しているからこそ、巨大スーパー以上の存在になり得ると指摘。
さらに熊野は、薄利多売の「面」で市場を取りにいくモデルは、仕入れコストが上がれば一気に赤字化し得ると指摘し、コロナパンデミックやウクライナ情勢で日本企業はそのリスクを経験したはずだと述べました。だからこそ、これからのグローバル化の主戦場は「価値」であり、ネットワークの総和が市場を超えていく時代において、「グローカル」という古くもありつつ新しい、という考え方が重要になるとまとめました。
Q4:高尚で哲学的な議論を、いかに具体的なアクションへ落とし込むか?サステナビリティやインパクトファイナンスの意義を社内に浸透させ、未来の理想を現在の実践へとつなぐ具体策とは何か?
【熊野の回答】
熊野は、ステークホルダーと共有すべき共通価値は、利益ではなく「サステナビリティ」であると述べました。利益は資本主義における共通言語ではあるものの、配分を巡って必ず利害が分かれ、真の意味での共通価値にはなり得ないと主張。一方、会社が持続し続けることは、社員の安心、取引先の信頼、投資の継続性といった形で、すべての関係者に共通の価値をもたらすと整理しました。
そのうえで熊野は、持続性を現実の経営構造に落とし込む方法として、サーキュラー化を挙げました。資源の回収・再生を前提とした設計ができれば、為替変動やインフレといった外部環境に過度に左右されず、再生コストと回収コストを自社で制御できる収益構造を構築できる。サステナビリティとは理念ではなく、持続するための極めて実務的な経営戦略であると語りました。
Q5:ビジネスモデルを構想する際、どこを重要視して見立てるべきか?
【熊野の回答】
熊野は、ソニーのウォークマンの事例を挙げ、まだ誰も見たことのない未来は、既存の市場調査やマーケットインの発想では「売れない」と判断されがちだと述べました。
ビジネスモデルを構想する以前に重要なのは、経営者自身が「見てみたい世界」や「実現したい欲求」を持てるかどうかだと指摘。まずは未来への強いイメージがあり、その世界観に共感する仲間を集めながらプロトタイプを作り、小さな成功を社会に試していく。その積み重ねが、次のビジネスモデル、ひいては時代の予兆になると語りました。その過程で、他者には容易に真似できない文脈や関係性が組み込まれ、結果として模倣困難性を備えた事業へと磨き込まれていくという見解を示しました。
Q6:AIにより従来の「対価(工数・時間)」が破壊される時代、価値をどう創るべきか?
【熊野の回答】
熊野は、質問者の懸念通り、労働工数や知識工数に依存する対価はAIによる劇的な効率化によって破壊されると指摘しました。したがって、「価値=機能」の比重を下げ、AIには模倣や機能分解ができない「無形性」の領域(文化・感性・文脈など)へ価値創出の重心をシフトする必要があると強調しました。
その上で、かつての「良いものが売れ続ける」静的なモデルから、意志を持って「作り続けないと売れ続けない」動的なモデルへ時代が変化したという認識を示しました。最後に、この価値づくりは一企業の能力(ケイパビリティ)だけで完結するものではなく、同じ価値観を共有するサプライチェーン全体で成立させるべきだという「ダイナミック・ケイパビリティ」の視点を補足しました。
【AIの回答】
AIは、「意志を持つのは人間である」と人間の主体性を認める回答を返しました。議論の中では、AIが効率化を担うことで生まれる「人間が作り続ける余白」こそが価値創出の鍵になると整理しました。
Q7:文化の「差異」は武器になるか? 国境を超える編集力と価値創出とは?
【AIの回答】
AIは、「編集は欠落から生まれる」「編集者は翻訳者ではない」と述べ、異文化をそのまま正確に移し替えることではなく、理解しきれない部分やズレを内包しながら再構成する行為こそが編集であると指摘しました。さらに、異文化の受容においては「誤解こそが創造性の源泉となる」という示唆を提示しました。
【熊野の回答】
熊野はまず、人類には制約条件の中で最高のパフォーマンスを生み出す能力があり、その積み重ねとして各地の文化が形成されてきたと述べました。民族衣装や郷土料理が今も残っているのは、制約の中で最適解を編集してきた結果であり、文化そのものが編集の産物であるという認識です。
その上で、日本企業は工業社会の成功体験から、完成した成果物を生み出すことに注力してきたと指摘しました。しかし、これから求められるのは成果物そのものではなく、日本的な最適解を導き出すプロセスや方法論を提示することだと語りました。方法そのものを共有する方が、国境を越えて持続的な価値を生みやすいという考え方です。
また、AIの提示した「誤解」という言葉を受け、熊野は、全員が寸分違わず同じ理解に至れば、思考や創造は静止してしまうと指摘。「カレーうどん」が異文化の融合から生まれたように、この動的なズレや解釈の違いこそが、次の価値創出につながる重要な要素であると整理しました。
Q8:サステナビリティ経営への「安心安全」な移行方法はあるか?
【AIの回答】
AIは「安心安全な移行方法は存在しない」と明言しました。「安心を求めた瞬間に競合に負ける」とし、不安こそが創造の源泉であり、その不安に耐えながら意思決定すること自体が経営者の役割だと指摘しました。
その上で、不安との付き合い方として「失敗の学習コストを下げる」「長期の時間軸を持つ」「仲間をつくる」「動的均衡を受け入れる」といったプロセス重視の姿勢や、AIを実験加速ツールとして活用することを提案しました。
【熊野の回答】
熊野はまず、日本企業が抱える構造的な課題として、人材や挑戦への投資が会計上「コスト」として扱われる、財務会計中心の発想の限界を指摘しました。不確実な未来に向けた意思決定には、過去の実績を評価する会計ではなく、意志と未来志向を基点とする管理会計の視点が不可欠だと述べました。その上で、PoCやプロトタイプのようにまずは小さく試し、確度を高めながら進める。その積み重ねこそが、不安と共存しながら変革を進めるための現実的な方法だと語りました。
Q9:AIは偏った価値観に統制されないか? 日本的なAI国家戦略はどうあるべきか?
【AIの回答】
AIは、日本的なAI国家戦略の方向性として、次の五つの柱を提示しました。
個人最適ではなく関係性や全体最適を志向する「関係性最適化AI」。
日本が抱えてきた制約条件を起点に価値を生む「制約駆動型イノベーション」。
グローバルプラットフォームへの依存を前提としない「ローカルデータ主権」。
日本的な強みである「編集知」を技術として実装していく視点。
アルゴリズムよりも優先されるべき「倫理と意思の明確化」
【熊野の回答】
熊野は、前者の質問に対しては、AIの黎明期において開発者の属性や価値観が反映されやすいという懸念は現実的だと認めた上で、技術は数年単位で急速に進化し、やがて特定の属性を超えた水準へと修練されていくだろうと見立てました。重要なのは、技術の成熟を待つことではなく、その過程でどの価値観や前提をAIに学習させるのかという、人間側の意思であると述べました。
Q10:優れたメタプロンプトはどのように設計できるのか?
【熊野の回答】
熊野は、「優れたメタプロンプト」に一般解は存在しないとした上で、各社が自社の企業理念とコア・コンピタンスの「有効範囲」を定めることが出発点になると整理しました。社会全体の文脈から自社を俯瞰する「メタ化」を行い、その視点から自社の戦略や投資判断に問いを立てることができて初めて、主観を超えた競争優位が生まれると述べました。メタ化とは、AIを使いこなすための技術ではなく、経営者自身の認知のアップデートだと強調しました。
【AIの回答】
単なる質問文の工夫ではなく、「AIにどう考えさせるか」という価値基準の注入こそがメタプロンプトの本質だと回答。そのために必要な要素として、「自社の哲学の言語化」「時間軸の明確化」「制約の内在化」「AIバイアスの認識」「対話による編集」を挙げました。
Q11:AIのエネルギー消費による環境負荷という矛盾と、どう向き合うべきか?
【AIの回答】
AIは、自身のエネルギー消費問題を「事実であり深刻な自己矛盾」と認めた上で、解決不能な課題であると回答しました。その上で、重要度の低いタスクへの過剰適用を避けるなど、人間側が用途と優先順位を設計する必要があると指摘しました。
【熊野の回答】
熊野は、AIへの些細な反応一つにも膨大な電力が消費される現実を認めつつ、量子コンピュータや核融合といった技術革新が、将来的に電力制約そのものを塗り替える可能性にも言及しました。現在の制約だけを見て悲観するのではなく、10年、20年先に起こり得るブレイクスルーを見据えながら、今何にAIを使い、何には使わないのかを主体的に選び取る姿勢が重要だと語りました。
総括(熊野)
最後に、ベースインプットで述べた3つの社会(モノの社会・人の社会・AI社会)が重なり合う複雑な時代に動的に適応することが、今後の経営の肝であると再確認。その最も合理的な方法は、これら3つの社会を組織に内在化させる経営方法だと述べ、その横串となるのは「情報」であると指摘しました。また、企業は今後、企業理念とコア・コンピタンスを軸に、横串である情報をいかに自社らしいインテリジェンスに編集していくかが求められると示しました。
熊野は、日本は「モノづくり大国」から「価値生産大国」へ移行すべきであるとも主張。それぞれの企業が価値生産の矜持を持ち、ネットワークを生かした新しいプロトタイプを企画する時代に期待を寄せて、本セミナーを締めくくりました。
当日の参加者からは以下のような声が寄せられました(一部編集・抜粋)。
AIと人間のクロスディスカッションが新鮮だった。
AIを「道具」とみるか「社会」とみるか。じっくり考えてみたいと感じた。
複雑化する社会を常に洞察する「経営能力」の必要性を感じた。
リーダーがサステナビリティ経営の延長に「見せたい世界」を持っている事が、非常に重要だと理解した。
AIを道具として使う以上に、経営者の主観の重要性を改めて強く感じた。

全4回にわたり開催した羅針盤セミナーシリーズについて、ご関心をお寄せいただき誠にありがとうございました。本シリーズが、企業が新たな経営秩序を切り拓くための「未来指針」の一助となっていれば幸いです。今後も多様なテーマでセミナーを企画してまいりますので、引き続きのご参加を心よりお待ちしております。